一人暮らしをしている僕は悪魔にとりつかれているのだ。彼の名前を「つけおき」という。彼は基本的に無害であり、特に何か攻撃してくるわけでも、呪い殺してくるわけでもない。
しかし、こと料理のときに彼は厄介である。フライパンに具材を落とし、皿に盛り付け、おいしくいただいた後。さあ洗い物をしようと思ったタイミングで、彼はささやいてくるのだ。
「つけおきした方が、もっと洗うのが楽なのになあ」
まさしく悪魔の誘惑である。洗い物は面倒なものだ。そして、彼は今それをやらない正当な理由を教えてくれる。
食べ終わった、汚れた食器。これを今すぐに洗わない理由はあなたの怠惰ではなく、「つけおき」をすることによって、より洗いやすくなるためだと。これは効率を上げるための正義の行動だと彼は言うのだ。
まさしく悪魔の誘惑である。この正当な理由に従ってしまえば、僕のアパートの洗い場には、「つけおき」の名のもとに存在を許された汚れた食器があふれていくのだ。
悪魔に対抗するには、シンプルにこちらも正当な主張を用意するしかない。僕の場合は、「食器が温かいうちに汚れを落とした方が、洗いやすいことに違いない」という主張を持って悪魔を切り落としている。
つい先ほどもラーメンを調理して食べたが、その理論の剣を持ったうえで悪魔に打ち勝ったのだ。僕は怠惰ではない。
「つけおき」の悪魔は恐ろしい。僕は占い師をやっているが、この悪魔に関してはかなりいろいろな人が取りつかれているんじゃあないのかなと確信している。
何よりやっかいであるのは、この悪魔に取りつかれている自覚のない人間が多いということだ。
あなたのキッチンを一度見てほしい。もしそこに、洗っていない食器があふれているのであれば、もしかしたらあなたも悪魔に取りつかれているのかもしれない。